NO.3 ベンジャミン・ミルピエ
今回私が最も特筆したいのが、ベンジャミン・ミルピエの個展である。恥ずかしながら今回この写真祭に訪れるまでその存在を知らなかったのだが、ミルピエはナタリー・ポートマンの夫であるらしい。ナタリーがアカデミー主演女優賞を受賞したあの「ブラック・スワン」に振付師として、またダンサーとしても出演しており、共演をきっかけに結婚に至ったのだとか。ダンサー役としては結構端役だったと記憶しているが。とまあ、野次馬はこの辺にして、何が言いたいかというとミルピエは写真家ではない。ダンサー・振付師である(最近では映画監督業も手がけているようだ)ミルピエ氏の芸術を「写真祭」で表現する?訪れるまでは頭の中に疑問符が散らばっていた。
展示の表題は「Freedom in the Dark(暗闇の中の自由)」。断っておくと、布袋 寅泰の同名曲とはなんの関連もない。ミルピエのダンスは蝶のようかもしれないが。笑う所である。
さて、展示の内容は、2012年から自身が経営するダンスカンパニーのある、ロサンゼルスの路上で道ゆく人、ダンサーを撮影したモノクロの写真作品と、サウンドスケープ。
通行人を写したモノクロの写真群には、「カラフルなアメリカンカルチャーにも暗部がある」という意味が込められており、「被写体がどう映るかということについては気にせず、いまの状態はどうあるのかということにフォーカスして撮っている」らしい。
メインとなる、等身大のプリントを屏風に見立てたダンサーのモノクロ写真について、ミルピエ氏は「アクションが起こるのは自己表現です。ダンサーが自由に行っていること。その瞬間をとらえるのが面白いですね」と語る。私がこれらの評を読んだのは、展示に足を運んだ後のことだが、静と動、その瞬間を切り取ること、こういう意味だったのかと後から思った。振付師ならではの視点で撮影された作品だ。
会場の2階ではビデオ。これは正直よくわからなかった。色々と他の講評なども読んでみて、私の中に立ち位置が落とし込めたら、ここに書くことにする。
3階では(これが一番心に残っている)動く体の部位のスナップが、円柱形の部屋の壁一面に張り巡らされ、ビートのあるサウンドスケープによってそれらがまるで動いているかのように錯覚させられた。30〜40分は一人で会場に立っていたから、「変な人」だと誤解されたかもしれない…。音楽(と言っていいものかわからない。メロディ?だろうか)は人の心と体を動かすのだと、改めて思い知らされた。
会場:「誉田屋源兵衛」黒蔵